他の記事でも多く書かせていただいていますが、スーツの着こなしには体にあったサイズとフィット感、シルエットが何よりも大切です。ただ、スーツのサイズは変わらずとも体は歳とともに変化していくもの。
久しぶりに着るとキツかったり、部分的にフィット感がなくなってきたりすることもしばしば。ただ、せっかくオーダーで作った世界に1着しかないスーツ、着れなくなったからと言って再度購入するのは難しいと考えている方も多いのではないでしょうか。
そんな時は「お直し」の出番。今回の記事ではお直しした方が良いチェックポイントとできる範囲、注意点などをご紹介します。ぜひご自身の大切なスーツをより長く着るヒントにしてください。
目次
スーツのお直しの種類
スーツのお直しには、おおまかに分けると、「サイズ直し」「縫製部分の縫い直し」「生地の修理」の3種類が挙げられます。基本的には購入店にスーツを持参し、着用した上でどの部分をどれくらい調整するか、どこの修理が必要かなどを相談しながら決定していきます。
サイズ直し
ジャケットのサイズ直し基本
袖丈・着丈・身幅(ウエスト)・肩幅の調整
スラックス(パンツ)のサイズ直し基本
裾丈・裾幅・ウエスト・腿周り・ヒップ周りの調整
縫製部分の縫い直し
縫製部分の縫い直しは、スーツを仕立てる際に縫い上げた部分が、経年劣化や負荷によりほどけてしまった場合に行います。生地同士の縫い目のほつれ直しやポケットの縫い直し、ボタンのつけ直しなどが比較的多く発生します。サイズ直しに比べて縫い直しは該当箇所の再縫製になるので、比較的安価で対応できる場合が多いです。
注意したいのは、体型の変化によってスーツに負荷がかかって縫製が切れたりほどけたりしたケース。これだと縫い直しをしたとしても同じ負荷がかかる以上、何度か着用していくとまた同じ現象が発生してしまう可能性が高いので、縫製の縫い直しで来店したとしても、まずはプロに縫い直しのみも良いのか、もしくはサイズ直しを検討した方が良いのかよく相談しましょう。
生地の修理
どこかに引っ掛けて生地が破れてしまったり、虫食いによる穴あきが発生した場合は、生地の修理を行うことになります。生地修理には「かけはぎ」と「ミシン刺し」という2種類の修理方法があります。また、生地の修理では穴や破れの大きさ・修理が必要な場所などによって、修理が難しい場合もありますので、ここも購入店に事前に相談するのが良いです。
かけはぎ(かけつぎ)
穴あき部分と同じ生地を使い、繊維1本1本をもとの生地の合わせて織り込んでいく修理方法です。手作業であることに加え、職人の熟練の技術によって行うため、仕上がりは最高で痛みや穴があったかどうかもわからなくなるほどです。ただし、職人の高い技術力を要する分、かけはぎの場合は修理費用が高額になるケースがあります。
ミシン刺し
補修が必要な部分にスーツと同じ生地で当て布をして、ミシンで細かく縫い込んでいく修理方法です。補修の跡が少し残ってしまうものの、かけはぎに比べ安価に修理が可能で、問題なく着れるレベルの仕上がりになります。
サイズ直しが必要なチェックポイント
では、サイズ直しが必要になる時はどのような時か、ジャケットとスラックスに分けて各チェックポイント(基準値)をご紹介します。
ジャケット
・背中のシワの有無
胸囲やウエストのサイズが合っていないと背中にシワができます。背中が突っ張っていたりたるんでいる場合はサイズ直しを検討しましょう。
・袖丈の長さ
腕をおろした時に、スーツの袖口が親指の先から11〜12cmくらいの長さになるのがベストです。ワイシャツがスーツの袖口から1〜1.5cmほど見えるくらいを基準にしましょう。
・肩回り
肩の山の部分を指1本でつまめるくらいのゆとりがあれば適正サイズです。スーツの肩幅がに余裕がないと二の腕の上部にシワが入り、逆に大きいと肩の山の部分がずれて肩まわりや胸まわりにシワが入りますので、このシワが発生している場合はサイズ直し対象です。
・胸元のVライン
ボタンを留めた時に、胸元のVラインが綺麗にできているかを確認します。胸囲よりもスーツが小さいとVラインが曲がって見え、逆にサイズが大きいと縦にシワが入ります。胸にこぶしひとつ分が入るくらいが適正です。
・ボタン着用時
ボタンを留めた時にスーツにシワができてしまうのは、完全にサイズが合っていない状態です。ボタンを留めてボタンの位置にこぶしひとつが入るくらいが基準です。
・脇下のたるみ
ボタンを留めた状態で、背面側や横側に縦や横にシワが入っていないかを確認します。サイズが大きいとシワが入ってしまうので、その場合はサイズダウンのお直しになります。
・衿まわり
ワイシャツの衿が見えるくらいが基準です。小さいサイズだとスーツとワイシャツの衿元に隙間が空いてしまい、大きすぎるとワイシャツの衿が隠れてしまいまうので、シルエットが崩れてしまいます。
スラックス(パンツ)
・裾丈の長さ
裾丈の長さは裾が少し靴にかかる程度が目安です。真っ直ぐ立った状態でくるぶしが見えていたり、裾がたるみすぎているなどはサイズが合っていない状態です。靴を脱いだ状態であれば、床から指1〜2本分のあたりに裾がくるとちょうど良いサイズです。
・ウエストまわり
パンツのウエスト部分が腰骨の上にくる位置で着用してみてください。上げすぎるとシワが入ったりきつく感じたりします。正しい位置で着用し、ベルトなしの状態で、手のひらが無理なく入るくらいが適正なサイズ感です。
・ポケット
ウエスト部分のポケットがちゃんと閉じているか確認します。スラックスがキツくなってくると、ポケット部分が引っ張られて開いてしまいます。
・バックライン
後ろから見た時に、少しゆとりがある程度がシルエットも綺麗でgoodです。ヒップが浮き上がって見える場合はサイズが小さい状態なので、お直し対象です。
・内もものもたつきの有無
太ももまわりの生地にゆとりがあるか確認します。ゆとりがあり過ぎるとシルエットが崩れてしまい、ゆとりがなさすぎると、太もものラインがぴったり出て窮屈な印象になってしまうので注意が必要です。
どこまでサイズが直せるものか
スーツのサイズ直しは、部位によって直せる範囲が異なってきます。お直しでサイズダウンすることを「つめる」、サイズアップすることを「出す」と呼ばれますので、ぜひ参考に以下を読み進めてみてください。
ジャケットのサイズ直し範囲
・袖丈
袖の長さは、つめることで短く調整が可能です。腕の長さは左右差がある場合もあるため、それぞれの長さに合わせて調整するのがポイントです。
・着丈
首のつけ根から裾の部分までの長さを着丈と呼びます。着丈の長さはつめることが可能で、目安はヒップラインが見えるくらいの長さになります。
・袖巾
脇の高さあたりの腕まわりのことを袖巾と呼びます。ここの部分はつめることで細くできます。肩山から袖のすっきりさによりウエストと隙間が空くと、綺麗ですらっとしたシルエットになります。
・ウエスト
ウエスト部分は、つめて3〜4cmほど小さくできます。ポケットの位置はずらせないため、シルエットの変化に注意しながら調整します。
・肩巾
肩巾はつめて狭めることができます。2cm程度が目安なので、それくらいで調整してもらいましょう。
・身巾
身巾は胸囲の部分のことを指します。左右のラインをつめることで、約4cmほど小さくすることが可能です。
スラックス(パンツ)のサイズ直し範囲
・丈
パンツの丈をつめて短く、または出して長くすることが可能です。
・ウエスト
ウエスト部分はつめ・出しによって小さくも大きくも調整可能できます。調整できる範囲の最大値は±3〜4cmです。
・裾巾
パンツ裾はつめることで小さくできます。丈をつめて小さくした場合は裾巾も同時に広がりますので、合わせて全体のサイズ感を確認しましょう。
・太ももまわり
太ももまわりは、つめることで2cmほど小さくすることが可能です。小さくしすぎてピチッとなってしまわないように注意しましょう。
・ヒップまわり
ヒップまわりは、後ろの中心をつめて小さくすることが可能です。場合によっては、太もも周りをつめてヒップまわりのだぼつきを解消させる方法が良い場合もあります。
お直しの注意点
スーツをお直しする場合、何点か注意点があります。お直し前によく確認してみてください。
全体のバランスに気を付ける
サイズ直しを行う場合、直す箇所に集中して意識が向きがちですが、スーツの基本は全体のシルエットなので、バランスを考慮してお直しをしてもらうようにしましょう。
使用しているシャツ・靴・ボタン(予備)などを持参する
サイズ直しの際には、実際にスーツを着た状態で調整していきます。ですので、普段使用しているシャツや靴を持参することが必要です。実際に着用した状態でないと全体のサイズ感やバランスも変わっています。(お店によっては貸し出してくれる場合もあり)
購入した時の状態に戻るのは難しい
お直しはあくまでも購入から時間が経ったスーツに対して行うケアです。長年着用しているとどうしても劣化してしまうので、購入時と同じように戻るのは難しいのが現状です。あまりにも生地の痛みやサイズ感が窮屈な場合は、再購入も検討しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回はオーダースーツのお直しについてお話ししました。なんでもそうですが、道具を長持ちさせるのは日頃からのケアと修繕です。スーツも例外ではなく、普段から着ている方は特にケアを怠らないようにすることで、大切なスーツを1日でも長く着ることができます。fromGでももちろんお直しを対応しておりますし、お客様のご要望とスーツの状態から最適なお直し方法をご提案させていただきますので、ぜひお気軽にご相談ください。